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2006.12.9
連続小説
「GAMER 〜NAS芹沢物語〜」

(NAS芹沢@大阪PalmIII)



第25回「想いを受け継ぐ美しき瞳 お嬢様の帰国」


喫茶『GAMER』で店番をしていた水咲愛は、退屈だった。

愛:誰も来ない・・・。

本当に誰も来なかった。
後でわかったことだが、この日はちょうど近くのゲーセンで小規模なゲーム大会が開かれていて、常連客であるゲーマー達がみんなそちらへ行っていたという事情もあったのだ。

愛:うーん、お姉ちゃんじゃなきゃ、やっぱり誰も来てくれないのかな?

青いエプロンを身につけた少女は看板娘に少しだけ嫉妬しながら、ぼーっとしていた。
そんな店番の時間が終わろうとしていた夕方近く、不意に店のドアが開いた。

愛:いらっしゃいませ〜。あっ。

そこには、愛と同じ中学生くらいの長い黒髪が美しい少女が立っていた。
一見キリスト教系の女学院を思わせるような、黒を基調とした制服っぽいブレザーとスカートをはいていた。

少女:あ、あなたは、あの時の!

店に入ってきた少女は愛を見るなり、驚きの声を上げた。

愛:あなた、どうしてここに?
少女:あなたこそ、どうしてここに?

長い黒髪の少女二人は立ったまましばらく見つめあった。
お互い、厳しい目つきになって対峙している。

少女:あなたとは、そのうち戦うことになるかもしれませんわね。
愛:・・・・・・。

そのとき、また店のドアが開いた。

あかね:ただいまー。

あかねがドアを開けた瞬間、愛は突然青いエプロンを脱いで投げ捨てると、ドアの方に走った。

なる:わっ、なんだ、どうしたんだ?

あかねと一緒に店に入ろうとしたなるは、急にダッシュで突進してきた愛を間一髪避けた。

愛:おねえちゃん、あと、よろしくね!

愛はそう叫ぶと、街の中へ消えていった。

あかね:そんなにも店番がイヤだったのかしら。

あかねはあきれた顔で開きっぱなしのドアから街の方を見て、そう言った。
なるとあかねは、お店にお客さんがいるのに気がついた。

あかね:いらっしゃいませ! なによ、愛、お客さんをほったらかしにしていくことないじゃないの。

少女:あ、あの・・・。

黒くて丸い瞳が美しい少女は、切り出した。

少女:水咲、・・・水咲幸治さんにお会いしたいのですが。
あかね:えっ、水咲幸治は私の父ですが、いま出かけています。
少女:そうですか・・・。
あかね:私は水咲あかね。私でよければ、代わりにお話を伺いますけど・・・。

少女はなるの方をちらっと見た。

あかね:あ、こいつはなる。ただのエロゲーマーよ。
なる:誰がエロゲーマーだって?
あかね:だってそうじゃない、脱衣麻雀ばっかり遊んでるくせに。
なる:なんで「ばっかり」になるんだよ。そんなことはない。
あかね:じゃあ、なんで「芹沢」にしたのよ。
なる:だからそれはだな・・・

なるとあかねはいつものように口げんかをはじめた。

少女:ゲーマーに、いま危機が迫っているのです。

その声を聞いて、なるとあかねはケンカをやめて、少女の方を見た。

少女:私の名は神宮寺しおり(じんぐうじ・しおり)。私は、私は父のかたきを取りたいのです。
なる:お父さんの?
あかね:事情を話してもらえる?しおりさん。

「神宮寺しおり」と名乗った少女はうなずくと、ゆっくり話し始めた。

しおり:私の父、神宮寺和也(じんぐうじ・かずや)は組織のことを調べているときに、組織によって殺されたのです。7年前くらいのことでした。
あかね:そ、組織ってまさか?
なる:・・・そういえば、平賀師匠が前に言ってたね。昔、あかねのお父さん、そしてもう一人の男の三人で組織について調べていた、と。
あかね:その、もう一人の男の人が、しおりさんのお父さんっていうことね。
しおり:私、父のかたきを取りたいんです。命がけで成し遂げようとしていた意思を受け継ぎたいのです。

しおりは、小さな体をいっぱいに振り絞って、そう話した。
黒くて長い髪が揺れる。

そのとき、店のドアが開いた。
あかねの父、水咲幸治であった。

あかねの父:・・・そうでしたか。娘さんがいるとは聞いていたが。
しおり:私は三歳の頃からずっとアメリカで暮らしていました。先週、日本に戻ってきたばかりです。
あかねの父:お父さんは、あなたに組織のことを?

しおりは首を横に振った。

しおり:何も話してはいません。しかし、父が残した組織に関する膨大な調査データが日本で見つかったのです。それを調べてみた結果、私はここに来ようと思いました。
あかねの父:それだ。私たちが探していたものは。やはり調査結果は存在していたのか。
しおり:その内容によると、どうやら組織は世界中に支部を持っていて、アメリカや日本で特に動きが活発だったことが記されていました。
なる:アメリカでも?
しおり:そうです。そこで、私はもう一度アメリカで現在の組織の状況について調べて来ようと思っています。
あかねの父:なるほど。しかし、くれぐれも気をつけていただきたい。くれぐれも・・・。

あかねの父、水咲幸治はしおりを見つめて心配そうにそう言った。

しおり:はい、ありがとうございます。私には護衛の者もおりますので大丈夫です。
あかねの父:何かあったときは、すぐに連絡していただきたい。私たちはいつでも協力しよう。和也のためにも・・・。
あかね:そういうことなら、もちろん協力するわ。まずは調べることね。私たちは日本で何か調べてみようよ、なる。
なる:僕は、まず平賀師匠にこのことを伝えてくるよ。味方が増えたって、ね。

なるは微笑んだ。

あかね:ようし、では早速しおりちゃんと対戦しようかなあ。
なる:初対面なら、誰とでも対戦しようとするんだな、あかね。
あかね:当ったり前じゃないの。しおりちゃんになら、勝てそうな気がするわよ。なんだか、おっとりしてそうだし。

しおり:あの、実は私、ゲームはしたことがないのですけれど・・・。
あかね:えっ、そうなんだ。それじゃあ余計に今回こそ勝てる気がするわね。
なる:そんな人相手に対戦しないだろ、普通。

あかねはしおりの手を引っ張ると、強引にゲーセンに連れて行くのであった。

なる:あれ?このお店にゲーム台あったんじゃ?

なるは、ふと自分が昔対戦させられたゲーム台が収納されている方を見た。
たしか、このへんから勝手に筐体が出てきたような・・・。

あかね:あ、その台で全然誰にも勝てないから、他のゲームで勝負するのよ。
なる:・・・だめだこりゃ。

三人はゲーセンの中へ入っていった。

しおり:うわー、皆さんすごく楽しそうですわね。どうすれば、ゲームを遊べるのですか?
あかね:どうすればって、お金を入れたら遊べるけど?
しおり:お金・・・。

しおりは懐から一万円札を出すと、必死に入れる場所を探した。

あかね&なる:???

しおりは必死にゲーム台をくまなく調べている。

あかね:あの、しおりちゃん。お札じゃ遊べないんだけど・・・。
しおり:えっ、わたくし、このお金しか使ったことがないのですが。
あかね&なる:はあ???

あかねはポケットから100円を取り出すと、ゲーム台に入れた。

あかね:これでいいのよ。
しおり:私、そのお金見たことがありません。
なる:もしかして、しおりさん、お札しか使ったことがないのかも。
あかね:ま、まさか、そんな人がいるわけないじゃない。

そのとき、背後に大きな人影が現れた。

男:しおりお嬢様は、お札以外使ったことがないのです。
あかね:うわっ、びっくりした。だ、誰?

そこには、ゴウよりも大きな、身長2メートルはあるかという男が黒っぽいスーツを着て立っていた。
突き出た岩のようにごつごつした頭、五分刈りされた髪の毛と、見た目は格闘家風でものすごく恐そうだった。

男:申し遅れました、わたくし、しおりお嬢様の警護を担当しております、室田(むろた)と申します。
あかね:は、はあ。
室田:しおりお嬢様は、硬貨を使ったことがございません。身の回りのお世話は全て私ども神宮寺家に仕える者が行いますので。

なるは、あかねに耳打ちした。

なる:も、もしかして、しおりさんってものすごいお嬢様なんでは?
あかね:コインを使ったことがないって、信じられないわ。なんか、とんでもない子みたいね・・・。
なる:ゲームを遊ぶときに、使うお金の種類から教えたのって初めてだよ・・・。

しおりは無邪気に笑いながら、レバーを動かしていた。

しおり:うわー楽しいー。世の中に、こんなに面白いものがあったなんて、お父様は全然教えてくださらなかったわ。

今度はあかねがなるに耳打ちした。

あかね:なんか、今回対戦したいという気持ちが薄れてきたわ。
なる:なんだか、結構うまそうだよ。

初めて遊んでいるのに、しおりは明らかにあかねよりも上手にプレイしているようだった。

あかね:なんだか、妹がもう一人できたみたい。

あかねは、ゲームに集中するしおりの後ろ姿を見ながら、そうつぶやいた。

しおり:室田、コインが無くなりました。持ってきてくださる?
室田:はっ、ただいま。

室田は低いゲーセンの天井に頭をぶつけそうになりながら、両替機に走った。

その日、しおりはゲーセンの閉店時間まで遊び続けていたという。


つづく


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