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2005.4.24
連続小説 「GAMER 〜NAS芹沢物語〜」 (NAS芹沢@大阪PalmIII)私の名は「なる」。 あ、いや、現在の名は「NAS芹沢」(なす・せりざわ)。 それは、私がゲーマーだった頃。 遠い昔のお話・・・。 第17回「さらば『ニキセン』 なる、新たなる旅立ち」 なるはあまりにも突然の申し出に、驚いた。 なる:ぼ、僕がですか? 二木先生:そうや。ここにいる用務員のおっちゃんと、わしには共通の友達として一人のプロ棋士がおる。そこに弟子入りする気はないか? あまりにも突然の話に、なるはどう答えてよいかわからなかった。 なるは二木先生と用務員のおっちゃんを交互に見ながら、考えた。 いや、考えようとしたが頭が回らなかった。 そのくらい突然のことだったのである。 なる:は、はあ。 二木先生:なるの実力を見せてもらって、これからもっと修行を積めばプロになれると思った。弟子入りするなら早いほうがいい。今のような14歳くらいがちょうどいいと、わしは思っちょる。 なる:僕が・・・弟子入り。 二木先生:もちろんすぐに返事をくれとは言わん。最後は自分で決めることじゃな。もし、その気があれば話を持っていこうかと思う。 なる:わかりました。一度考えてみます。 用務員のおっちゃん:二木先生がそこまで認めるんなら、相当強いんじゃろう。どうじゃ、わしと将棋を指してはもらえんか。 なる:えっ。 用務員のおっちゃんは、二木先生よりは若い人だったがそれでも50歳くらいではないだろうか。 二木先生と同じように日焼けした真っ黒な顔、どんな作業でもこなせそうな力強い腕。 なるは勝負を受けることにした。 そこへ、用務員室にノックもせずにドアを開け放ち、飛び込んでくる奴がいた。 ささぼん:なるが用務員のおっちゃんと勝負だって言うから、学校に引き返して見に来たぜ! なる:おいおい、勝負するってのはさっき決まったんだけど。どこからの情報だよ、それ。さっきまで間違った情報だったけど、いま本当になったとこだけどね。 ささぼん:いや〜間に合ってよかった。 なる:一体どこから聞いてきたんだよまったく。誰にも言ってないのに。 なるは笑いながら、用務員のおっちゃんと向かい合わせに将棋盤の前に座り、駒を並べ始めた。 林間学校のときも畳の部屋だったが、今度も畳の部屋なのでいかにも将棋らしい感じだ。 なる:おねがいします。 なると用務員のおっちゃんは一礼し、対局がはじまった。 おもむろに左手で▲7六歩を進めた。おっちゃんは△8四歩であった。 なる:(今回は、真っ向勝負する。僕の力を二木先生にも、見てもらう) なるはまさに王道といった感じの指し手で進めた。 用務員のおっちゃんも、それに乗るかのように手を進める。 場面は相矢倉(あいやぐら)の展開を見せた。 矢倉(やぐら)とは、将棋では一番有名な矢倉囲いの陣形のこと。 自分の陣地を強固に守るための陣形の一種である。 相矢倉とは、その名の通り、両者とも矢倉囲いをする試合展開のことである。 今回の勝負では、なるは奇抜なことは一切行わず、正面からぶつかるつもりなのだ。 用務員のおっちゃんも、同じように矢倉囲いをした。 観戦している二木先生とささぼんも、真剣な眼差しになっていた。 用務員のおっちゃんは、なるに対していかにも「向かって来い!」と言わんばかりに、自陣の駒を小刻みに動かして手をかせいでいた。 つまり、わざとなるの方には攻めてこなかった。 なるは我慢できなくなり、おっちゃんの陣地へ攻めを開始することにした。 なる:(行くしかない!) 用務員のおっちゃんの矢倉囲いは強力であった。 なるが指す手に対して、一歩も引かず、間違った手は一切指さなかった。 二木先生より強いのでは、となるは思った。 なるは攻め続けるが、おっちゃんは完璧にその攻撃を抑えていた。 ささぼん:おおーすげー戦いだ。こりゃ長引きそうだぜ。 二木先生:そう、それじゃ、これこそ本当に立ち向かっている姿じゃよ。 なるは、攻撃に参加する駒を増やすべく、自分の陣地にいた駒たちを少しずつ前進させていった。 数で押そうというのである。 しかし、それは自分の陣地の守りの数が少なくなるということでもある。 守りが手薄になれば、弱い部分があれば一気に攻め込まれてしまう。 つまり、二木先生との対戦時のように負けてしまう可能性が高い。 なるはそれを覚悟の上、勝負に出た。 ささぼん:いよいよ決着か!? 用務員のおっちゃんは、的確になるの陣地の穴をついて攻撃を仕掛ける。 必死に防戦するなる。 攻めるために前に進めた駒をわざわざ下に戻してまで防戦した。 二木先生との勝負とは違う、粘り強さを見せた。 なるの陣地はなかなか崩れない。 しかし、おっちゃんの陣地も依然強固であり、なるも攻め手を欠いていた。 ささぼん:すごい・・・まだ耐えるのか。 用務員のおっちゃんは攻めに攻めた。 少しずつなる側の陣形が崩れていく。 必死に反撃を試みるなるであったが、守るのが精一杯という感じだった。 そして、ついになるの陣は陥落。 120手にも及ぶ戦いは、用務員のおっちゃんの勝利に終わったのである。 なる:ありがとうございました。 用務員のおっちゃん:こちらこそありがとう。いや〜二木先生の言うとおり強かった。上に進めた金を戻してまで守られると、さすがにきつかった。 二木先生:なる、よかったぜ、でも、まだまだじゃな。 ささぼん:林間学校のときよりすごかったぜ、なる! なるはその言葉を聞いて少し微笑んだが、その直後にこう言った。 なる:先生、僕は、将棋の世界には進まないことにします。 ささぼん:なる、どうしてだよ?せっかくのチャンスなのに。 なる:僕には、進むべき道があるんです。進まなければならない道が。そこには、大切な仲間たちがいて、パートナーもいて、その、つまり・・・ そこまで聞いた二木先生は笑いながら、こう言った。 二木先生:そうか、よく言った、なる。自分の人生だ、自分で決めなきゃいかん。 用務員のおっちゃん:その通り。将棋でこれだけの腕を得ているんだ、他のことに挑戦してもやり遂げることができる。君はまだ若いんだから。 二木先生:そういうことじゃな。まあ、わしがプロ棋士に紹介してやれるのも、学校を辞める来年の春までじゃから、もしその気があればと思って声をかけさせてもらったまでじゃよ。最後は自分で決めた道を進みなさい。 なるとささぼんは、初耳なその言葉に驚いた。 なる&ささぼん:先生が、辞める!? 二木先生は、言った。 二木先生:まだ生徒には言ってなかったかもしれんが、わしは定年なんじゃよ。だから、今年は最後の教え子。お前たちはわしの最後の教え子になる。 なる:そんな・・・。 二木先生:悲しそうな顔をするな。老兵はなんとか、と言ってな。これからは、君らの時代や。若いもんにまかせて、来年の今頃わしは隠居生活して毎日将棋や碁を打っておることじゃろうて。はっはっは。 なる:先生。 ささぼん:そうか、じゃあもっともっとニキセンと今のうちに遊んでおかなきゃな! 二木先生:勉強もちゃんとせいよ! 二木先生は笑っていた。 しばらくして、ささぼんとなるは学校を後にした。 土曜日のお昼なのに、昼ごはんも食べずに勝負していたので、おなかが減っている。 ささぼん:参った〜めっちゃおなかすいた。でも、面白い勝負が見れたから、いいや。 なる:僕は、自分の進むべき道が見えた。ゲーマーとして、僕は戦う。 ささぼん:水泳も、将棋も捨てたんだから、絶対ゲーマーの世界で一番になれよ、なる。 なる:ああ、もちろんだよ。もちろん目指す。早速、練習だ。 ささぼん:今から行けば、おやつの時間に間に合うかもな。愛ちゃん特製の美味しいケーキが食べられるんじゃないか? なる:甘いものに目が無い「お姉さん」が全部食べてしまってなければ、ね。 なるは笑いながら、梅田へと向かうのであった。 日差しはあたたかく、気持ちのよい風。 いつもより気分がいい。 負けたのに、なぜか気分は最高。 なる:(高野先輩、僕の夢、今はっきり見えたような気がします!) 他の道は、すべて捨てた。 本当に進みたい道だけを選ぶ。 ゲーマーとしての、なるの新たな旅立ちであった。 つづく |