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2005.3.9
連続小説 「GAMER 〜NAS芹沢物語〜」 (NAS芹沢@大阪PalmIII)私の名は「なる」。 あ、いや、現在の名は「NAS芹沢」(なす・せりざわ)。 それは、私がゲーマーだった頃。 遠い昔のお話・・・。 第15回「勝負! 全力のメドレーリレー」 日曜日になった。 いよいよ市の水泳大会当日である。 なるは朝6時に起きて、軽く体操をした。 そして、6時半には市民プールに集合するのだ。 先着順で席の確保が自由にできるので、各校の1年生たちは市民プールの入口で朝6時から待機していた。 歩いていく距離などがなるべく選手の負担にならないように、大会本部の近くに自分の中学校の席を確保することは非常に重要なことであった。 水泳大会とはいえ、席取りからもう、すでに戦いははじまっているのである。 6時半。 市民プール入口の門が開き、いっせいに各中学校の席取り隊は会場の中へ走り出した。 なるは2年生なので猛烈にダッシュする必要はないが、その後を走って追う。 今年は非常にいい席を確保した。 なるの後輩の1年生たちは足が速かった。 これは1、2年後の活躍が楽しみである。 ささぼん:いよいよだな、なる。 なる:いよいよだね。 まずは個人の種目。 ささぼんは100m平泳ぎ、なるは100m背泳、それぞれの予選である。 高野:なる、がんばって! 守田:ささぼん、期待してるわよ。 ささぼんは、非常にいい泳ぎをしていた。 他の学校の三年生よりも速い。 ささぼんの組ではトップであった。 なる:さすが、ささぼん。 ささぼん:いや〜決勝はちょっと無理かも。他の組で速いのがたくさんいたから。 ささぼん本人が語っていた通り、ささぼんは全体の中で14番目のタイム。 自己ベスト更新もならず、上位8人が出場できる決勝には進出できなかった。 なる:次は、僕の番だ。 なるは背泳の予選に出場した。 市民プールの50mプールは広くて気持ちいい。 学校の25mプールとはスケールが違う。 そんな大会独特の雰囲気をなるは感じていた。 高野:なる〜、あと50m、ラストがんばれー! ささぼん:いけーなる! みんな声をかぎりに応援してくれた。 なるは必死で泳いだ。 しかし、なるは自分の組で2位だった。 決勝には到底届かない記録ではあるが、それでもタイムは自己ベストを更新した。 なる:いや〜やっぱりダメだった。 高野:なる、すごいじゃない、自己ベスト更新。まだまだ来年はいいタイムが出そうね。楽しみだわ。 なる:ありがとうございます。来年はもっとがんばります! ささぼん:決勝行けなかったけど記録は出したな。なる、おめでとう。 なる:ありがとう。来年は決勝に行きたいな。 他の部員たちも、いいところまで行くのだが決勝に手が届く者はわずかだった。 守田先輩はさすがと言うべきか、女子平泳ぎで決勝に進出した。 その他の3年の先輩もわずかであるが決勝に手が届くものもあった。 高野先輩は女子の自由形と平泳ぎに出場したが、残念ながら決勝には出ることができなかった。 なる:お疲れさまでした、高野先輩。 高野:あ〜悔いは無いわ〜。気持ちよかった。 いつものカラフルな水着を着た高野先輩は、いつものように笑顔だった。 高野:さあ、次で最後ね。なる、行きましょう。 次は男女混合メドレーリレーの予選。 部員の声援を受けながら、守田先輩、高野先輩とささぼん、なるの4人は待機場に向かった。 200mメドレーリレーは、50mずつ泳ぐ。 メドレーリレーでは、第一泳者が背泳である。 なるは緊張した面持ちでプールに入り、スタートの位置についた。 なる:絶対に、高野先輩に決勝でも泳いでもらうんだ。ここで終わらせるか。 なるは普段にもまして気合が入っていた。 予選落ちしたら、高野先輩の中学生活での最後の泳ぎとなってしまう。 せめて、決勝に進出してもう一回泳いでもらいたい、なるはそう強く思っていた。 ピストルが鳴る。 なるは勢いよく飛び出した。 絶対に決勝に行く、その気持ちが強く現れた力強い泳ぎだった。 ささぼんや守田先輩にも、それが伝わってきていた。 なるは8チーム中3位で高野先輩の平泳ぎにつないだ。 高野先輩も必死に泳いでいた。 最後になるかもしれない、この泳ぎ。 なるは一瞬でも見逃すまいと、叫びながら高野先輩の泳ぐ姿をずっと見ていた。 高野先輩は8チーム中2位でささぼんにつないだ。 2年生とは思えないダイナミックなバタフライで泳ぐささぼん。 しかし、バタフライは体力を必要とし、しかも基本的に体格が大きい方が有利なため、どうしても他校の3年生の方が速い。 みんなの声援を受けてがんばったが、徐々に他のチームに追いつかれてくる。 ささぼんは8チーム中4位で守田先輩の自由形につないだ。 祈るような気持ちで見守る部員たち。 しかし、心配の必要はなかった。 守田先輩はあっという間に3位まで順位を上げ、さらに2位の選手に追いついた。 なる:守田先輩! みんな必死に叫んだ。力の限り応援した。 なるの部において、部長でありしかも一番の競泳実力者である守田先輩は、速かった。 一人ぐんぐん他の選手に追いつく様は、会場にいるほぼ全員を魅了したといっても過言ではないくらいだった。 ラスト15m、ついに守田先輩のクロールは1位の選手をとらえ、並んだ。 ほぼ同時のゴール。 一体どちらの手が早かったのか? 会場が静まり返った。 電光掲示板に記録が表示された。 タッチの差で1位、全体でもぎりぎり8位での決勝進出決定だった。 なる:おーやった、やったーーーーー! ささぼん:やっぱり守田さんはすごいぜ! 高野:やった、すごい、すごいよなる、ささぼん!うれしーーー。 その後、決勝では8チーム中7位であったが、メドレーリレーの決勝に進出したこと自体がこの日、みんなの最高の喜びになったのであった。 なるの中学では結局、守田先輩の平泳ぎ決勝3位入賞が最高だった。 なる:終わりましたね、先輩。 高野:終わったね。でも最後にうれしかったわ。決勝に出られるなんて。なるのおかげよ。 なる:いえ、僕なんか全然。すべて守田先輩のおかげです。 高野:そんなことないわ。リレーはみんなのおかげ。一人ではできなくても、何人か集まればできることがあるのよ。なる、このことはよく覚えておいて。そうすれば、きっとこれから先あなたの夢を実現させるときにみんなが助けてくれると思うわ。 なる:はい、ありがとうございます。ほんとにお疲れさまでした。 大会は終了し、各校とも片づけをしていた。 なるも帰り支度をしてカバンにタオルなどを詰め込んでいたそのとき、ちょうどなるの横をすれ違った他校の男の子が、不意にぽつりと小声でつぶやいた。 男の子:へっ、「クラウン」じゃあボロ負けだったが、プールじゃあ負けないぜ。 それはさりげなく、だがしかし力強い口調だった。 なる:えっ!? なるはすぐに男の子の方を見た。 しかし、男の子は振り返る素振りも見せずに、そのまま歩いて遠ざかっていく。 帰り支度をしているまわりの人たちが多くてなかなか見えなかったが、なるはその男の子の横顔を遠くから見ることができた。 なる:あ! なるは1週間前の日曜日に、とある町でゲームセンターでゲーム大会に出ていた。 結果は見事に優勝。 そういえば、そのときのゲームセンターの名前が「クラウン」だったような。 なる:まさか、さっきの人は、あのときの参加者の一人・・・。 なるはもう一度男の子を見ようとしたが、会場から出ようとする人が多くて確認できなかった。 誰一人聞いてはいなかったが、なるはその場で小声でつぶやいた。 なる:水泳のチャンピオンは、君に譲るよ。・・・僕は、ゲーマーのチャンピオンになるから、ね。 つづく |
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2005.3.30
連続小説 「GAMER 〜NAS芹沢物語〜」 (NAS芹沢@大阪PalmIII)私の名は「なる」。 あ、いや、現在の名は「NAS芹沢」(なす・せりざわ)。 それは、私がゲーマーだった頃。 遠い昔のお話・・・。 第16回「林間学校の夜 筋違い角の急戦」 なるの通っている中学では2年生になると「林間学校」という行事がある。 日常の教室を離れて、大自然の中で宿泊して集団生活をする、遠足の延長上のようなものであった。 なるは、林間学校に旅立つため、学校に集合したところである。 二木先生:全員集合せいやぁ〜! なるのクラスの担任は二木(にき)先生。 定年間近の男の先生である。 もうすっかりおじいちゃんに近いのであるが、非常にパワフルな人であり、その人柄と熱血指導から生徒には一番親しまれていた。 学校ではなるのクラスの担任であると同時に、技術科の先生でもある。 ただし、学校の中にいるとすっかり日に焼けて真っ黒な庭の植木職人みたいな感じで、初めて見る人はみんな、先生というよりは用務員のおっちゃんに見えたという。 実際、中学校の中にある植木や花の世話を手伝っていたりもして、自然を愛するところも人気のポイントである。 ささぼん:なる、「ニキセン」が呼んでる。早く行こうぜ! なる:ささぼん、おはよう。 生徒たちはそんな二木先生のことを親しみを込めて「ニキセン」と呼んでいたのだった。 なるとささぼんは2年生で同じクラスであった。 二人はバスに乗り込んだ。 クラスのみんなを乗せたバスは、キラキラと気持ちのよい朝日を受けながら高速道路を走り抜ける。 数時間の後、バスは山奥の大きな山荘にたどり着いた。 山荘のまわりは観光スポットになっているようでそれなりに他の建物やお店が何軒かあったが、少し離れるとそこは森、山、そして川といった大自然に囲まれた場所であった。 なるはバスから降り立った。 空気がおいしい。 風が心地よい。 さすがのなるも、しばしゲームのことは忘れて自然の壮大さ、豊かさに酔いしれる。 そこにいるだけで気持ちがよかった。 山荘の中に荷物を置いた後は、山歩きや飯ごう炊飯、自然体験をメインとしたイベントが盛りだくさん。 なるをはじめ中学生たちは、日ごろ体験できないことの連続に驚きとそして感動の連続なのであった。 そうこうするうちに、あたりはすっかり真っ暗。 夜になると、明かりもネオンもない、車の音も無い場所。 山荘のまわりは静かだった。 山荘の中の大広間に集まっていたなるのクラスは、トランプを数人で楽しむ者、ひたすらおしゃべりする者、みな思い思いに自由時間でくつろいでいた。 二木先生:なる、将棋しようや。 二木先生は大広間を歩いていたなるを突然呼び止め、部屋の片隅に常備してあった将棋盤を指差した。 なる:えっ?僕ですか? 二木先生:おう、なると、やで。小学生のときからすごかったという噂はわしも聞いとる。誰にも負けんかったとな。 なるは小学校で将棋クラブに在籍し、約20人の部員に対してクラブ公式戦完全無敗という伝説を作ったことがあるのだった。 しかし、ゲームの世界に目覚めてから、将棋を遊ぶことはほとんどなくなっていた。 なる:ぼ、僕でよければ・・・。 なると二木先生は大広間の床に座り込んだ。 大広間の一角は、急造の対戦場となった。 ささぼん:おおっ、なるがニキセンと将棋で勝負するって!こりゃ見ものだぜ。 二木先生となるのまわりには、クラスの生徒がたくさん集まってきた。 なる:先生に・・・勝てるわけがないけど、やるしかない。 なるは、明らかに将棋が強そうな二木先生に戸惑っていた。 しかし、いつものように勝利を模索する。 なるは駒を並べながら考えた。 どうすれば勝てるのか。 なる:(どう見ても僕とは経験が違いすぎる。真っ向勝負では勝てない。) 二木先生となるは、お互い礼をした。 対局開始である。 なるは、おもむろに左手で歩を一つつかむと、前に進めた。 先手なる:▲7六歩 後手二木:△3四歩 二人はそれぞれ自分の角(かく)の頭を開けた。 互いに無言、真剣勝負である。 なる:(ここで角を交換にいくのはセオリー通りやはり不利だ。しかし、がっぷり組んだら余計に勝ち目は無いかもしれない。ならばここは早めに勝負に出るしかない!) 先手なる:▲2二角成 後手二木:△同銀 先手なる:▲4五角 ささぼん:お、なんじゃこれは!? なるは角を交換して「筋違い角」を打った。 筋違い角とはその名の通り、デフォルトで角がいる筋とは違う一つずらした筋に角を打つ戦法のことである。 4五の位置に打つことで序盤に一歩得をするという狙いもある。 簡単に言えば、一種の奇襲である。 なるは、まともに戦っては不利と見たこの戦いにおいて、二木先生にきっちり守備を固められる前に、可能性のあるうちに勝機をつかもうと、いきなり勝負に出たのだった。 ささぼん:見たことねえ技だなあこりゃ。 二木先生は無言のまま指し続けた。 一歩得をなるに許したものの、危なげなく中盤を展開していき徐々に有利に持っていった。 ASUKA:先生はさすがだ、なるが押されている。 ささぼん:なる、簡単にやられるんじゃあねえぞ。 なるの友達であるASUKA、ささぼん達も、二人の真剣勝負に見入っていた。 そして、局面は終盤へ。 筋違い角で奇襲をしたなるだったが、相手の陣形が整わない間に攻撃を仕掛けるということは、逆に言えば自分の陣地も守りが固まっていないということである。 二木先生はなるの陣の一瞬の隙をついて猛攻に出た。 防戦するなる。 しかし、きちんと準備していない中途半端な守りだったために崩されるのもまた早かった。 なる:(これまでか・・・) 80手あまりで、なるは投了した。 終わってみれば二木先生の圧勝であり、ある程度最初から予測のつく結果ではあった。 二木先生:なる、楽しかったぜ。 なる:先生、ありがとうございました。 二木先生:「筋違い角」はわしにもよくわからん。まだまだ研究が足りないというか、誰も研究し尽くしていない戦法だわな。 なる:はい。まともに行くとどうなるかわからないと思って、やってみました。 二木先生:なる、筋違い角を指した時点で、お前はわしに負けちょる。 なる:と、いいますと? 二木先生:どんなに強いと思った相手でも、戦ってみなければ本当のとこはわからんよ。筋違い角を選んだ時点で、なるが逃げているようにしかわしには見えんかった。最初から逃げてちゃダメだな、まだ若いんだし。 なるは、二木先生のあまりに的確な話に、ただ納得するばかりであった。 二木先生:まあ、なんにせよ、久しぶりに楽しかったわい。 二木先生はそういうと、たばこを吸ってくるといって立ち上がった。 こうして林間学校の夜は終わった。 林間学校から帰って数日経った土曜日のお昼、帰ろうとして教室で片づけをしていたなるは二木先生に呼ばれた。 しかし、なぜか職員室ではなく、用務員室に来いとのことだった。 なる:一体なんだろう? 用務員室は、教室がある建物とは別のところにあった。 焼却炉などが近い場所に、離れのような感じの小さな小屋がひっそりと建っていた。 これが用務員室だ。 普段は生徒が誰も入らないような場所である。 なるは教室がある棟から伸びている屋根つきの渡り廊下を歩いていき、用務員室のドアを開けた。 なる:失礼します。 そこには二木先生と、用務員のおっちゃんがいた。 初対面だった用務員のおっちゃんに挨拶をしたなるは、靴を脱いで畳張りの部屋に上がって座った。 すると、間髪入れずに二木先生が言った。 二木先生:なる、プロの棋士に弟子入りして将棋の道に進む気は、ねえか? つづく |